
無頼と内省の両方に足を出した、壊れているひとたちのリアルな人生。ニーチェを引用する元ライトヘビー級チャンプ(現在、アル中)とか、側頭葉癲癇で発作的に全ての記憶を無くして旅に出てしまう売れっ子コピーライター(現在、インドで死にそうな馬を金に飽かせて救出中)などなど。
昔、ハードカバーで出たときに読むのを敬遠したのは、ボクシングとベトナムの話が中心だという誤った情報のため。全然違うじゃん!どっちかというと、宗教哲学実践本みたいな。 ひとことでいうとイカす本です。

最後の150頁ほど、人類を宇宙の時間の流れから孤立させた仮定体がいったい「何をしていたのか」が分かっていく部分は、星4つくらいです。・・・が、なにせそこにいたるまでの「文学的な詩趣」や「普通の人間の営み」がぼくにはまったくの邪魔もの。SF的なガジェットを利用した文学には素晴らしいものが多いですが、SFが文学に色目を使うとだいたい失敗になると思うがどうか。好みの問題ですが。

詩とは何か。自分がまったく知らないこと知りえないことだけを断固として表現したものなのだ。この作品に登場するいろいろなひとたちは、憑かれたように議論したりセックスしたりするが、ほとんど「知り合う」ことがない。人生が孤独な詩、独房の同志である所以だ。なんちて。ぼくは、最終章の「独房の同志」「クララ」「ジョアンナ・シルヴェストリ」が大好き。あと「センシニ」も。

みっつにひとつはかなりの奇想なのに、全てが最後にもっともらしくおとされてて残念。

スターリン時代のロシアの少女たちを主人公にした連作短編集。冒頭二編のガイカとヴィーカの双子がツボ。おとなしいガイカに「あなたは捨て子なの」と信じ込ませて極限状態に追い込むヴィーカ。と言っても作者の分身はどっちかと言うとヴィーカだと思われ。
あとは、少女たちだけのクリスマスパーティに淫靡な絵が持ち込まれ、そこまでやっちゃうのかというほどの性的ドンちゃん騒ぎが・・・。もっとも男もこれにかなーり近いことをそれなりにやってるので、少女もこんなもんなのかも?

いままで奇妙な味の軽いミステリ短編集で期待以上のものをあまり読んだことがないので、これもそこそこ読めればいいかな、疲れてるし、と思ったら吃驚するほど皮肉でひねった面白さでありました。
とくに、余命を言い渡された男が無礼なやつを殺し続ける「歳はいくつだ」が絶品。あるいは、ヘンリー・S・ターンバックル部長刑事の知的な名推理(惜しむらくは、事件解決にまったく無関係)も素晴らしい(「こんな日もあるさ」「縛り首の木」)
その他、「日当22セント」「殺人哲学者」「旅は道づれ」「罪のない町」など、最後に皮肉な笑いがある話が好みですだ。
削って削ってひとつひとつの効果を最大限にした言葉で出来上がった短編ばかりですが、実は、一番笑ったのが「デヴローの怪物」の本筋とはほとんど関係ないマンスン大佐の経歴。武勲を挙げようと入隊した初日が第一次大戦終結日。第二次大戦では、モンゴメリ将軍の北アフリカ戦線のあいだ英国国内でじりじりし、やっとアフリカに転属した三日前にロンメル失脚。ヨーロッパに戦線が移動してもずっとアフリカで、フランスに転属したらベルギーに戦線移動。朝鮮戦争に出兵したら即休戦。ついにノーベル平和賞候補に推挙された生粋の軍人。
といったバカ話もなかなかいけるっす。

やっぱり古い。テーマが先にあっての思弁SFはこうなる。

フェミニストが激怒するのが怖いので英語圏では未だに市場には出ておらず、日本人だけが完全な形で読めるという触れ込みの超絶女性「モノ化」SF小説。
なんですが、これも家畜人ヤプーとかと比較してしまうので、徹底した人間性否定の文学には全然足りないと不満を漏らしてしまう。終わり三分の一くらいは、解放戦線の活劇になってしまうので、ふつうのSFを読んだような読後感なのも残念。ワトスンは若い時分(60年代後半)、東京で講師をしていたそうなので、やたらと日本通。横尾忠則リスペクト&ローラーゲームでご機嫌伺いみたいな。

次の直木賞候補には、ぜったい残らないと断言。だって誰も正当に評価できないし、間違ったことを言ったら作者本人から理路整然と全否定されるのは目に見えているので怖くて怖くて。
例を挙げるなら、ピンチョンの小説を読んだような気分とでも申しましょうか。無類に面白いんだけど、自分には絶対にその真髄を味わうことができないという無力感。いや、ちゃんと歴史や文学を勉強すればいいだけなんですけどね。
テーマだけを取り出すのはわりと簡単ですが、ほぼ無意味。とくに好きなのは表題作で、最初はこいつら皆、死んだあとにここにたまっているのかと思いましたが、まあそれは勘違いでしたが、雰囲気的にはとてもゴシック。あるいは、サド侯爵のハチャメチャな「弁明」、「金の象嵌のある白檀の小箱」の不倫合戦とかとてもバカバカしくてよろしいです。

岸本佐知子ご推薦の短編集
日本語タイトルは大失敗だと思う。「世界の涯まで犬たちと、一緒に旅しよう」とか「世界の涯まで犬たちと、共に生きよう」とかじゃなく、「世界の涯まで犬たちと、セックスしよう」とか「世界の涯まで犬たちと、カエルたちと、蛇たちと、虫たちと、障害者たちと」みたいな感じの話ばっかりで、フリーク奇想好きにはたまらないのかもしれませんが、わたしには、まったくの大好物(笑) でも、「スノウ・フロッグ」にはちょっとき゛も゛ち゛悪くなりました。
「世界の涯まで犬たちと、セックスしよう」 もとい、『ドッグズ』がやはり最高傑作。気持ち悪い題材をここまでハートウォーミングに仕立て上げる手腕は並ではないです。あと『ビル・マクウィル』や『キャットフェイス』など長めの作品で、かつ登場人物がとんでもないほど優れていると思われ、ぼくが担当編集者だったら、短めの長編をたくさん書くように薦めるけど、本人はあと一作、長編が書ければ作家はやめるみたいなことを言ってるらしい。もったいない。